冒険家の反省ノート②パッキング・燃料――世界初フォレイカー冬季単独登頂・番外編

冬季ソロ登山のエキスパートは、下山後にどんな反省をして、次のチャレンジにどう生かしてきたのか。厳冬期のアラスカで20年以上も冒険を続けた栗秋氏が、2007年に世界初のフォレイカー冬季単独登頂を達成したときの詳細なメモをもとに、冒険家のリアルな「反省点リスト」を特別公開します――《閑人堂主人》

反省ノート②パッキング・燃料

ザックに荷物を入れていく際の鉄則は「すき間を作らない」だが、今回は荷物の組み合わせで失敗した。雪の中に埋めて支点をとるための、湾曲した金属板にワイヤーがついた「デッドマン」というものがある。デッドマンの湾曲部のすき間を利用して、チョコレートを一緒にスタッフバッグに入れたため、ポリ袋が切れてチョコレートの中身がこぼれてしまったのだ。

岩の割れ目に支点を取り、命綱をセットする。中央の金属板が「デッドマン」

これに関連して、雪の中にデッドマンなどのクライミングギアとガソリン缶をすぐ隣にデポ(一時貯蔵)すると、回収時に金属が缶に接触してキズつくかもしれないので要注意である。また、2月13日のトラバース終了地点では、風雪のなかラーメン16日分をデポし忘れて、あろうことかそのまま持ち帰ってしまった。とくに悪天時は注意を要するが、デポする荷物はザックの底まで手を入れてきちんと確認すること!

パッキングの観点からいうと、多量のガソリンは重いが容積がもったいないので、半ガロンではなく1ガロン缶満タン(約4リットル)で荷上げすべきである。とりわけ最終キャンプ入りするときは、できれば1ガロン、少なくとも半ガロンの燃料がないと心もとない。今回、最終キャンプに移動した直後に荒天につかまり、キャンプ直下にデポした1ガロン缶の燃料をすぐには回収できず、かなり焦った。上部キャンプに荷上げする燃料の量は、それに対応する食料の量より少なくとも半ガロン、できれば1ガロンほど多くして、がんばって確実に持ち込むべきである。

キャンプサイトから見る、デナリにかかるレンズ雲。テントの上からクライミングロープで固定すると、耐風性能が大幅にアップする。テントの横にあるのが1ガロン缶

鍋底に粉末状のアルミを吹き付けた、EPIgasのチタン製鍋を今回初めて使用した。この特殊加工により熱が鍋底の広範囲にいきわたるため、通常のチタン製鍋と比べて早くお湯が沸き、燃料が0.5割から1割ほど節約できることがわかった。たとえば、MSRの中ボトル満タン(約590ミリリットル)で行動日の朝晩にガンガン使うと1日半でなくなるが、停滞日などガソリンを節約して使えるときは2日間もった。その結果、キャンプ1(C1)では約4リットルの燃料で11日間過ごすことができた。C2でも同量の燃料で10日間以上もつと考えてもよいだろう。
さらにこの鍋は熱による変形や焦げつきも抑えられるうえ、ザラザラした鍋底はゴトクの上での滑りを防ぐ効果もあり、三拍子揃った優れものである。一方、標準セットの鍋蓋はフライパンにもなるので汎用性はあるが、シンプルに蓋だけのほうが軽くなる。それに蓋が平らだと保温ボトルのカップをつい置いてしまい、飲み物をこぼしてしまうことがあった。

MSRウィスパーライトという手動加圧式のコンロを愛用しているが、今回新タイプの加圧ポンプを使用してみて不具合がみつかった。登頂日のビバークの際、気温マイナス28度の雪洞内で新タイプの樹脂製ポンプカップが硬くなり、対処法としてカップを温めたり専用オイルを塗ったりしてみたが、うまく加圧できなかった。予備の旧タイプの革製ポンプカップに交換して加圧できたために難を逃れたが、もしもあの状況で火が使えなかったらと思うと正直ゾッとする。

新タイプの加圧ポンプを装着したMSRウィスパーライト。ケーブルやノズルについた煤を取り除く、週に一度のクリーニングは欠かせない

これに関連して、新タイプのポンプについて思い当たる節がある。旧タイプのポンプでは問題なかった気温マイナス10度以下の朝方、新タイプのポンプのガソリンが少し漏れていたことがあった。加圧式コンロの〝教科書〟どおり、やはり新タイプのポンプは使用後に圧を抜かないといけないのかもしれない。ただし旧タイプは激しく加圧するとポンプの先が外れることがあったが、新タイプはストッパーが改良されていて、不用意にポンプの先が外れることはなくなった。

アウトドア製品といえどもその多くが一般ユーザーを想定して改良されるので、新タイプの製品に新調するときは、過去に不具合のなかった旧タイプのパーツなど予備を必ず携行すること!


栗秋正寿

登山家。1972年生まれ。1998年に史上最年少でデナリ冬季単独登頂。下山後、リヤカーを引いてアラスカの南北1400キロを徒歩縦断。2007年、世界初のフォレイカー冬季単独登頂に成功。2011年に第15回植村直己冒険賞を受賞。20年以上アラスカの山に挑み続け、冬の単独行は合計16回、延べ846日。趣味は川柳、釣り、ハーモニカとピアノの演奏、作曲。

【連載】世界初フォレイカー冬季単独登頂・全記録

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