世界初フォレイカー冬季単独登頂・全記録 #9

オーロラが舞う夜、一人きりのテントで。ブリザードが吠える夜、仄暗い雪洞の奥で。栗秋正寿は毎晩、かじかむ手で小さなノートに文字を刻んできた。世界で唯一の〝冬のアラスカ専門登山家〟による貴重な記録として、詳細なデータ満載のメモをほぼ原文通りに再現。シリーズ第1回は、2007年のフォレイカー冬季単独登頂(世界初、現在まで栗秋氏のみが達成)――《閑人堂主人》

2007年3月12日(入山41日目)

C4(キャンプ4)で休養日。

13時間もよく寝た。たくさん食べて横になり、とにかく2日間にわたるアタックの疲れをとる。

午前中の雪洞内の気温マイナス22度、コンロを使うと気温マイナス15度ほど。

天気は快晴 → 晴れ → 曇りとガス、強風となる。朝晴れていたデナリの上部もしだいに雲がかかり、天気は悪化した。夕方、ここC4も完全にガスのなかとなる。今日アタックしていたらどうなっていたか……あきらかに旗ざおの数が足りない!

昨日も昼過ぎからフォレイカー山頂にレンズ雲がかかった。朝からチェックしたわけではないが、夕方にフォレイカーの山頂に雲が流れていた程度の3日前の9日は、まだましだったのか? アタック日和のような好天になかなか恵まれない。今日休めたので、明日の朝下山できる天気ならC3まで下るつもりでいる。

午後7時30分、曇りとガス、突風が雪洞内に入り込んでくる、雪洞内の気温マイナス18度、592ヘクトパスカル。

C2付近から見えるフォレイカー南峰

3月13日(入山42日目)

終日風が強いためC4で停滞。

曇り~晴れ、雪洞内の気温マイナス28度と寒い。コンロの火があっても気温マイナス22度~マイナス23度ほど。

午後になってさらに風が強まり、雪洞内に風と粉雪がどんどん入り込む。今日もアタックどころではない日である。(気圧グラフをつける日)

3月14日(入山43日目)

昼前まで吹き続けた風は、午後から弱まった。天気は晴れだが午後からの下山では時間的に遅いため、明朝に下山したい。

食料が十分にあるので、重さを減らすためにガンガン食べているがなかなか減らない。3日ぶりにクリームを塗って足先の手入れをする。雪洞内の気温マイナス17度。ダウンパーカを2枚着て、シュラフの霜取りをガンガンすると少し暑いくらいである。

気象局(アメリカ国立気象局)によると、アンカレジやマタヌスカ渓谷やデナリ国立公園でも強風のことを伝えている。

3月15日(入山44日目)

午前5時に起床。あまり風がないせいか、雪洞内の気温マイナス22度とそう寒くない。

天気は晴れ → 曇り → 晴れ、C3まで下る。

C4直下に張ったロープの終了地点まではよかったが、尾根の東側に出たとたんに風にさらされる。3月10日のアタックのときと同じような風であり、デナリとハンターから風下に流れる雲が、こちらにどんどんやってくる。

結局、中風~強風や突風のなか、尾根をクライムダウンするハメになる。何度も風にあおられて、氷化しているルートでは突風が恐ろしかった。少しでも飛ばされたら、スリップしてそのまま氷河の下まで落ちてしまう。C4出発時はわからなかったが、あの風ならダウンパーカを2枚重ねて着て、ダウンミトンがほしかった。手足の先がしびれて、何度も温めなおした。

三連岩のところまで下りてきてだいぶ風は収まったが、上部の風はいまだに強い。フォレイカーの山頂もものすごい風とガスであり、アタックしていたらひとたまりもない。C3すぐ上の2ピッチ目はロープを出さずにクライムダウン。C3に着いてから1ピッチ目のロープを回収した。

C3の雪洞入口は雪で完全に埋没していて、立てていた旗ざお2本で入口の位置がわかった。ここC3は風が弱く、最終キャンプのC4から脱出できてホッとしている。

雪洞入口から見るアバランチスパイアなどの夕景やその後のトワイライトは、なんともいえない美しさ。写真ではあらわせない。

C4午前10時14分 → C3午後2時50分。

ハンターの夕景

3月16日(入山45日目)

まれに中風が吹いたが、終日穏やかな晴れの日である。

デナリとフォレイカーは快晴だがハンターだけに雲がかかり、風で南西方向に長い雲が流れていて、おかしな天気である。

午後からフォレイカーの南稜には雪煙が上がったが、フォレイカーの頂上や南峰には雪煙が見られず、風はどれくらい吹いているのか? 今日がアタック日だったかもしれない……と思いつつC2まで下降する。フォレイカー南東稜の岩稜エリア最上部でワタリガラス1羽を見る。

荷物が多いのでC3直下にロープを2本張って、一度3300m地点まで荷下げをしてデポした。C3に戻って残りの荷物をパッキングした後、C2まで下った。C3直下の氷壁エリアのみスノーバー1本を残置して、60mロープを2本つないで懸垂下降をする。

C2すぐ上の急な尾根に60mロープ2本を張りながら下る。ロープを出すタイミングが早すぎたため、ルートから外れたエリアの岩に引っかかってしまい、かなり時間をロスした。明日はデポ地点まで登り直して荷物を回収し、そのまま荷物をトラバース開始地点まで下ろすことができるかな?

昨日下ったC4~C3間と同様に、C3~C2間も自分の足跡が残っていてとても助かる。雪が降らずに曇りやガスと風の日が多かったので、場所によっては足跡が浮きでている所もあった。旗ざおのピンク色のリボンはほとんど飛ばされているが、竹自体は残っていて助かった。リボンのつけ方は再検討が必要である。

夕焼けが素晴らしい。その後少し風がでる。午後8時40分、時どき中風、雪洞内の気温マイナス20度、692ヘクトパスカル。

C3午前11時25分 → デポ地点(3300m) → C3午後0時53分~午後1時36分 → C2午後5時18分。

2007年のフォレイカー登山ルート

栗秋正寿

登山家。1972年生まれ。1998年に史上最年少でデナリ冬季単独登頂。下山後、リヤカーを引いてアラスカの南北1400キロを徒歩縦断。2007年、世界初のフォレイカー冬季単独登頂に成功。2011年に第15回植村直己冒険賞を受賞。20年以上アラスカの山に挑み続け、冬の単独行は合計16回、延べ846日。趣味は川柳、釣り、ハーモニカとピアノの演奏、作曲。

【連載】世界初フォレイカー冬季単独登頂・全記録

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