世界初フォレイカー冬季単独登頂・全記録 #5

オーロラが舞う夜、一人きりのテントで。ブリザードが吠える夜、仄暗い雪洞の奥で。栗秋正寿は毎晩、かじかむ手で小さなノートに文字を刻んできた。世界で唯一の〝冬のアラスカ専門登山家〟による貴重な記録として、詳細なデータ満載のメモをほぼ原文通りに再現。シリーズ第1回は、2007年のフォレイカー冬季単独登頂(世界初、現在まで栗秋氏のみが達成)――《閑人堂主人》

2007年2月20日(入山21日目)

快晴~晴れ? ハンター上部に朝雲(朝霧?)がかかる。風があって雪洞内も寒く、初めて鍋の水が凍りかけた。午前9時少し前、C2(キャンプ2)に日が差したが、気温マイナス21度、雪洞内の気温マイナス15度。入口のツエルトを少し開けると風が入り込んできて、手がかじかむ。

午前10時、684ヘクトパスカル。外に出てみると、昨日からの北よりの風でカヒルトナ氷河の本流にできたサスツルギ(風で削られてできた雪面の凹凸)がよく見える。フォレイカーの南東稜上は北~北東よりの風が吹き、逆にここC2は南西よりの風が吹いている。気象局(アメリカ国立気象局)によるマタヌスカ渓谷の強風注意報と関係があるのか?終日風が強い。

夕方になっても、フォレイカーの南東稜上は北~北東よりの風が吹き、地形的な吹き返しなのか?ここC2は逆に南~南西よりの風が吹く。カヒルトナ氷河の本流もブリザード、ハンターの西稜上にも雪煙が上がる。気象局によると、アンカレジとマタヌスカ渓谷はともに快晴~晴れの日が続き、ウィンドチル(風や湿度による体感温度)が華氏マイナス25度~マイナス30度(摂氏マイナス32度~マイナス34度)になると告げている。なお、マタヌスカ渓谷は明日の午後まで風が強い予報なので、明後日に行動できるか?

フリースキャップの修繕をして、C2のデポから食料を少しゲットする。FMラジオは、アンテナを兼ねるイヤホンのコードを巻いたままでも感度良好である。

C2から見下ろすカヒルトナ氷河

2月21日(入山22日目)

風が強く、C2で停滞。昨日からの雪煙だけでなく、三山の頂上に大きな雲ができている。一日中、雪洞内の気温はマイナス18度と寒い。カヒルトナ氷河本流のサスツルギもよりくっきりと確認できる。強風が雪面を洗っていった跡!

2月22日(入山23日目)

快晴、午前7時40分に起床。午前8時、雪洞入口の気温マイナス28度、雪洞内の気温マイナス20度。午前8時40分過ぎ、C2に日が差す。時どき中風~強風がC2の旗を揺らしている。

今日は行動できそうか?と期待したが、風もあり体感温度はマイナス40度以下だろう。寒い。気象局によると、アンカレジとマタヌスカ渓谷ともに快晴、気温マイナス15度~マイナス30度で寒いとの予報。

外の様子を見るために雪洞から出たが、フォレイカー南東稜上の雪煙がすごい。カヒルトナ氷河の南西支流の雪面も、昨夜から吹き荒れたのか波のような跡が見える。ハンターの西稜上もアバランチスパイア(3080m)にも雪煙が上がっている。

風はいつ収まるのか? この風のおかげで雪面が硬くなり、C1~BC(ベースキャンプ)間のクレバスの問題が少し解決するかも……。

ロウソクを灯して夜を過ごす雪洞

2月23日(入山24日目)

昨夜から風が強まり、C2で停滞4日目。雪洞内の気温マイナス15度。気象局によると、アンカレジとマタヌスカ渓谷は明日まで快晴、その後曇りとなっている。天候の変化で風がやんでくれればよいが。

4日間の停滞中、ここC2の風向きは、上空やフォレイカー南東稜の上部の真逆に吹いている。一日中ラジオを聴いて過ごす。夕方に風が弱まった。C2周囲の雪面はカチカチでコンクリートのようだ。明日からC3へ向けて行動できるかも?

スノーソー(雪用のこぎり)は雪洞内の雪(水用)を切り出すのに便利。やはり、すべてのキャンプに携行すべき。

気象局によると、アンカレジとマタヌスカ渓谷は明朝の気温がマイナス30度、風による体感温度はマイナス38度。ここC2もかなり冷えるかもしれない。

午後6時50分、快晴~晴れ、デナリとフォレイカーに雲がかかる、気温マイナス23度、雪洞入口の気温マイナス15度、雪洞内の気温マイナス10度、689ヘクトパスカル。

2月24日(入山25日目)

晴れ、気温マイナス30度、690ヘクトパスカル。午前8時35分、C2に日が差した。気圧計が急上昇!

C2のすぐ上に2ピッチ(60m×2)ロープを張って氷河エリアにでた。午後、C2の上部でTAT(タルキートナ・エアー・タクシー)の「ビーバー」が飛来して、自分の姿を確認できたようにみえた。

2004年夏から秋の大規模な森林火災(流れてきた煙の一部がアラスカ山脈を覆ったことによる)などで氷河の下部がかなり解けたが、その影響を受けていると思われる。南東稜の尾根上までのルートの様子が、2001年のときとだいぶ変わっている。ラッセルを強いられるか所は少ないが、C3予定地(3440m)まで行けずに標高3300m地点で時間切れとなる。

午後9時、快晴、弱風~中風、気温マイナス30度、雪洞内の気温マイナス18度、695ヘクトパスカル。

C2午後10時46分 → ルート工作終了午後1時17分 → C2午後2時 → 3300m地点午後4時22分 → C2午後6時3分。

2007年のフォレイカー登山ルート

栗秋正寿

登山家。1972年生まれ。1998年に史上最年少でデナリ冬季単独登頂。下山後、リヤカーを引いてアラスカの南北1400キロを徒歩縦断。2007年、世界初のフォレイカー冬季単独登頂に成功。2011年に第15回植村直己冒険賞を受賞。20年以上アラスカの山に挑み続け、冬の単独行は合計16回、延べ846日。趣味は川柳、釣り、ハーモニカとピアノの演奏、作曲。

【連載】世界初フォレイカー冬季単独登頂・全記録

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